右腕の激痛と神経麻痺(44) 手の先生4回目の診察
こないだやった2回目の筋電図検査の報告書が届いてるというので、診察に行く。
前回の診察で、先生(ホンマでっかの澤口先生似、というか、もう今から「澤口先生」とします)に不信を覚え、今までの診察の、あまりのコミュニケーション力なさっぷりなどを細かく反芻して、勝手に憎悪を煮えたぎらせ、どす黒いガスまで腹に溜めこんだ私であったが、2週間も経つと「なんであれほど人を憎んだのだろう」と、ツキモノが落ちたように、憎しみが消えている。
だが、やはり、ひと月に1回、3時間待ちで、ほかの待ってる患者さんたちのことを気にして、聞きたいことを高速で聞いて帰ってくるのが関の山の、この診療体制では、もう無理だ。病院においては、命の危険性のない、どうでもいい疾患かもしれないが、自分にとっては死活問題であるのだ、利き手の麻痺問題は。
そして、この疾患に詳しい先生に診てもらいたい、という気持ちが募り、澤口先生にどこか紹介してもらおう、という気持ちしか、もはやなくなっている。
でも、澤口、取りつく島ないしなー。もしまたいつもの拒絶的な態度や荒くれ加減が出たら、こちらもいつもどおり「はぁ、そうですか、そうでございますよね~~」と田舎の女中づら下げて聞いてはおられん。何か憎々しいこと言ったら、ディオゲネスのように切り返してやる、と先生の言いそうな憎らし発言を想定し、あれこれとんちの利いた、それでいて破壊力のあるイヤミなどを用意し、とにかく肩をいからせ、戦闘態勢で向かう。
この日は、病院の始まる1時間前から整理券を取りに行ったおかげで、診察は2番目であった。
どうせ、返事はないだろうけど、いつものように挨拶すると「はーい!」ってわりと感じよく返してくる。うわっ、どうしたの!?
それからすぐ筋電図検査の結果を説明してくれる。
「少し、針検査での筋肉の数値が改善されてますね」
えっ、そうなの?
今回は針検査で前回「異常値」を出していた「手首を上げる筋肉」が、今も異常値ではあるけれど、少うしだけマシな数値になってた、というのだ。
でもその下の「指を上げる筋肉」は相変わらずダメ。
それに電気を流す神経伝達速度検査は、相変わらず「無反応」という状態。
そして検査をしてくれたリハビリ科の女先生の総論は
「(手首を上げる筋肉部分は)再支配がすすんでいると思います」というものだった。
末梢神経は上から下にかけて良くなるという原則から、上にある手首を曲げる筋肉(肘近くにある)の数値が改善方向を示してるということは、理論上はこのまま下部のほうに「再支配」が進む未来を想定できる。
「再支配」。
……あぁ、なんて神秘の調べで、かつ力のある言葉なんだろう。
でも、私にとってこの福音はぴんと来ない。ぜんぜん喜びが湧かない。
だってどうも信じられない。
なぜなら、それは、リハビリ女先生の、筋肉の猛特訓の末に出してもらった数値だし、あの特訓で、筋肉が最高にいい状態になって、実力以上の数値を出したような気がする。
それとか、そもそも手首は最初からずっと上げ下げできてたし(スナップきかないけど)、1回目の筋電図検査のときは、まだ右腕の痛みが相当残っていて、あまり筋肉に力を入れたりできなかった。
だから、今の数値こそが。本来、前の検査のときに出るはずだった数値なのでは?、とも思うし、そもそも4か月も経ってるのに、いまだ異常値って……などなどと、とにかく物事を悪く考える癖が止められない。
だって、ちょっとでもいい方向に考えようとすると、あまりにも毎度足下すくわれるから。何度も希望を摘み取られてきたのだもの。ショックアブサーバーをつねに働かせてないと……。
私の喜怒哀楽は「怒」と「哀」ばかりが発達していて、あまりに「喜」「楽」の登場回数が少ないので、出方もわかんなくなっちゃってる。
先生も
「手首の上げ下げは、良くなってる手ごたえがあるはずだよ」
と言うが、わからん~~。
それに、ずっと手首がCM関節症(このとき、先生に診断された)で腫れあがってるので、痛くて動かせないってこともあって、実感なし。
それはいいとして
「でも、ここで治りがストップする可能性もある」
とまた恐ろしいことを言う。
でも今日の先生は、きちんといちいち考えてから、モノを言ってくれるし、なんと顔を見て話すし、何よりありがたいのは、私の話をさえぎらない。しかも「あー、そうだったのかー」などとリアクションまで取ってくれる。
って困る、別れ話を切り出しに来たのに、何この優しさ開示。
「と、やっぱり、自然治癒の可能性もなくはないし、でも手術をやってもいいかもしれない。良くなる可能性が絶対あるとは言えないけど、悪いことではない。ただし、20センチくらい腕に傷が残るから、それは困るでしょう?」
などと、女心への気遣い発言まで飛び出した。
さらにびっくりしたのは、この時点でもいつもの倍以上時間取ってくれてんのに、「エコーで、病変(くびれ)見つかる可能性もあるよ。やってみる?」などと言いだす。
で、やってもらったんだけど、いつまでもくびれが見つからず、延々とエコーの画面から離れない澤口先生。っていうか、すでに病院開始時間から3,40人はもう患者さんいるのに、いいのか。
もう看護婦さんも、次の患者さんのカルテをバサッとわざと聞こえるように落としたりして、早くしろ、を促すんだけど、完全無視。没頭。
その真剣な探究心、画面を見つめる姿に、ヤバい、不覚にも「かっこいい」とか思ってドキドキしてしまった。
「やっぱり難しいなー。エコーでは無理かなー」などと人間味のあるひとり言を繰り出したり「ガングリオンみたいのはないね」と声をかける。
しかも私のくだらない「それはなんですか?」などにもちゃんと答える。
おかしい。気まぐれにもほどがある。
結局、エラい長いこと探してくれて、なんとなく「くびれっぽいが確証はない」レベルのものが2つ見つかり、私もあまりの長時間申し訳ないと自ら立ち上がり、終えてもらった。でも先生はまだ探したいようだった。
…………。
まいったな。
これではとても言えない、次の男を紹介しろ、などとは。
そうだ、あれ、こないだ、私が決定的に「この人はダメなんじゃあ」と思った、教科書的間違い発言あったんじゃん。あれをもう一度確かめてやれ!
「あの、先生、あれですよね。この神経が分かれて、〇〇になってどーのこーのですよね? △△じゃないですよね」
「そうだよ。〇〇になってどーのこーのだよ」って正解を言ってくれる。
えっ、なんで? この間、それを何回聞いてもヘンなこと言うから、不信が募ったんじゃん。もしや、単に「てにおは」などの校正まちがいレベルのものだったのか、あとは、なんか違うこと考えて、変なこと言っちゃったとか、私の聞き方に問題があったとか、まぁそういうことだったのか?
でも、最後の最後に、先生が「さぁどうしようかねー、むずかしいよねぇー」と言ったとき、おそるおそる勇気を振り絞って「あのう、たとえば、違う先生の見解なんかも聞いてみたいのですが、いやっ、なんていうか、その……」みたいにモゴモゴ言うと、先生、パーッと顔が輝いて
「いいですね!!」
だって。
「うん、大きい病院だと、こういう症例多くやってるし、しかも一つでも多く集めたいし、利害が一致しますよ。もしあなたが、そういうのに貢献したい、という意志があるなら、行ったほうがいいと思います」
しかも「どうします? セカンド・オピニオンだと何万もかかるし、もういっそ転院で『紹介』ってことにしますか?」って向こうからこっちが言いづらいことを、まるで空気を読んでくれてるように(それはないけど)、言ってくれる。
ひゃー、好展開で、うれしい誤算。
それから、先生に病院を挙げてもらい、私もネットで調べて知っていた末梢神経に強い病院がその候補にあったので、その病院をお願いする。
それでいったん診察終わって紹介状と会計待ちしてると、また診察室に呼び出され、「〇〇先生っていう後骨間神経麻痺に強い人がいるんだけど、その先生でいい?」って、機嫌よく尋ねられる。
えっ、すでに10分以上経ってるのにまだ紹介状書いててくれたの? しかもなんかびっちり書いててくれてるよ。
さらに、その挙げてもらった先生は、私がよくネットで末梢神経麻痺の論文を出してるのを目にしていて(医療関係者しか見れないサーバーだから読めないけど)、その先生がいいと思ってたので、びっくり。しかもその先生はちがう病院に移ってしまった、ということも調べてくれ、結局その移転先の病院に行くことになった。
結局、澤口先生、1時間近くも一患者に費やしてくれたわけだが、ほんとうにいったいなんなんだ。いつもは30人以上診たあとだから、あんなにカリカリしてるのであって、今日のが本当の澤口なのか。
でも私は騙されないぞ。よく、不良とか、ふだん冷たい人間が、ごくたまに見せる優しさでモテたりするけど、ふだんから優しい人間のほうがいいに決まってる。
めんどうそうな客がいなくなるとか、一人でも負担が減るので嬉々としただけかもしれないしね。
それはともかく、何はともあれ、こんなに澤口のこと勝手に憎んだり、悪口言ったりして悪かったな―と、申し訳ない気持ちもこみ上がる。
これでもう澤口ともお別れか、とひじょうに寂しい気持ちで病院をあとにした。
それにしても、リハビリ女先生の筋電図の読み方通り、少しでも再生してくれてたらいいのに。そしてこれから、指のほうにまでなんとか神経がイソギンチャクのように伸びれ!
やっぱり手術はしないのが一番いい。傷が残るのは、もう手のモデルになる可能性が断たれるわけだが、それはいい、あきらめるっ。それより、手術後の痛みとの苦闘がまた大変そうで、それを思うとやはり自然治癒が一番なのだよねぇーー。
こんばんは、ご無沙汰しております。
3.11以来ですね。あの時はお世話になりました。ありがとうございました。
ところで病気のほうですが、大丈夫でしょうか?(大丈夫ではないですよね)
44記事読み切れていないので、いまみゆき先生がどういう状況かわからないのですが、心配しております。
ずいぶん前になってしまいますが、南米の旅行はいかがでしたでしょうか?
また今度よければお話しきかせてくださいね^^
お大事に。